「このコーヒー、どんな味?」と聞かれて、「……苦い。あと、ちょっと酸っぱい」で止まってしまう。
コーヒーを好きになった人が、次にぶつかるのがこの「味を言葉にできない」壁です。自分も以前は、豆の袋に書かれた「ベリーのような風味」という説明を読んで、「どこがベリー……?」と首をかしげていました。
でも、テイスティングは生まれつきの才能ではなく「順番」と「練習法」を知っているかどうかです。この記事では、味わいを捉える5つの要素、プロが使う「フレーバーホイール」の使い方、そして自宅のマグカップでできる飲み比べの手順まで、コーヒーの味が分かるようになる道筋を1本にまとめます。
まず押さえる|味わいを構成する5つの要素
「味を言葉にする」の第一歩は、漠然と全体を味わうのをやめて、要素を1つずつ順番に探すことです。プロのカッピング(品質評価)でも、酸の質・甘さ・口当たりなどを項目ごとに分けて評価します。家庭では、まずこの5つで十分です。
| 要素 | 探し方のコツ | 言葉の例 |
|---|---|---|
| 酸味 | 飲んだ瞬間、舌の両脇がキュッとなるか | レモンのような/りんごのような/まろやかな酸 |
| 甘み | 飲み込んだ後、口に残る印象 | はちみつ/黒糖/キャラメルのような |
| 苦味 | 舌の奥。心地よいか、イガイガするか | ビターチョコ/香ばしい/焦げっぽい |
| コク(ボディ) | 液体の「重さ」。さらさらか、とろりとしているか | 軽やか/ミルクのような/どっしり |
| 香り | 飲む前と、飲み込んだ後の鼻に抜ける香り | 花のような/ナッツ/フルーツ |
大事なのは、ひと口で全部を判定しようとしないことです。ひと口につき1要素だけに集中する。これだけで「なんとなく美味しい」が「酸は控えめだけど甘みが長く続く」に変わっていきます。
プロの道具「フレーバーホイール」は内側から使う
コーヒーの風味表現には、スペシャルティコーヒー協会(SCA)が作った「フレーバーホイール」という円形の一覧表があります。約110種類の風味語が同心円状に並んでいて、中心に「フルーティー」「ナッツ/ココア」のような大きな分類、外側に行くほど「ブルーベリー」「ヘーゼルナッツ」のような具体的な言葉が配置されています。
正しい使い方は内側から外側へ、段階的に絞り込むこと。そして、確信が持てる層で止めてかまいません。「ベリーの種類までは分からないけど、フルーツ系なのは確か」——最初はそれで正解です。むしろ「フルーツ系か、チョコ系か、香ばしい系か」の3択から始めるのが、挫折しない近道です。
自宅でできる簡易カッピング|手順は6つ
プロが豆の品質評価に使う「カッピング」は、実は特別な道具がなくても再現できます。用意するのは粗挽きの粉10g、湯180ml、耐熱のカップとスプーンだけです。
- 粉の香りを嗅ぐ──湯を注ぐ前の「ドライ」の香りをまず確認します
- 湯を注いで4分待つ──粉が表面に層(クラスト)を作ります。この間も香りが変化します
- 表面をスプーンで崩す──「ブレイク」と呼ばれる瞬間で、閉じ込められた香りが一気に立ちます。ここが一番のハイライトです
- 浮いた粉とアクを取り除く──スプーン2本ですくい取ります
- スプーンで「ズズッ」とすする──行儀が悪く聞こえますが、霧状に吸い込むことで香りが鼻に抜け、口全体に液体が広がります
- 冷めながら3回味わう──熱いとき・少し冷めたとき・冷めたときで味は別物のように変わります。良い豆ほど、冷めても甘みが残ります
ポイントは、必ず2種類以上を並べて同時にやることです。人間の舌は絶対値ではなく「差」に敏感なので、1杯だけ味わうより、比べたほうが何倍も分かりやすくなります。
上達の近道は「対比の効いた飲み比べ」
最初の飲み比べは、性格が正反対の組み合わせを選ぶと違いがはっきり分かります。おすすめは浅煎りのエチオピア×深煎りのブラジル。フルーティーな酸と、チョコレートのような苦味という分かりやすい対比です(産地ごとの味の傾向はコーヒー豆の選び方で詳しく書いています)。
慣れてきたら、同じ豆で条件を1つだけ変える飲み比べに進むと、さらに面白くなります。湯温を変える(湯温と時間のガイド)、抽出器具を変える(フレンチプレスとエアロプレスの比較)、挽きたてと挽き置きで比べる(鮮度管理のガイド)——どれも「言葉にできる違い」の練習になります。
続けるコツ|「3行テイスティングメモ」のテンプレ
飲み比べの効果を何倍にもするのが、たった3行のメモです。難しい言葉は不要で、次のテンプレを埋めるだけにします。
- 1行目(系統)──フルーツ系/チョコ・ナッツ系/香ばしい系のどれに近いか
- 2行目(いちばん強い要素)──酸味・甘み・苦味・コクのうち、最初に感じたもの1つ
- 3行目(また買うか)──◎/○/△の3段階と、ひと言理由
例:「フルーツ系。冷めると甘みが伸びる。◎また買う——朝より午後向き」。これで十分です。このメモが10枚溜まる頃には、豆の袋の説明文を読んだだけで自分好みかどうかを予想できるようになっています。
よくある質問
Q1. 味オンチの自覚があります。それでも分かるようになりますか?
なります。テイスティングは味覚の鋭さではなく「注意の向け方」の技術です。2種類を並べて「どちらが酸っぱい?」から始めれば、誰でも違いは感じ取れます。分からなくても間違いではなく、「今日は分からなかった」という記録が上達の材料になります。
Q2. 特別な道具は必要ですか?
普段のマグカップとスプーンで十分です。強いて言えば、粉と湯の量を揃えるためのスケールと、挽きたてで比べるためのミルがあると精度が上がります(ミルの比較記事参照)。
Q3. 感じた味は毎回メモすべきですか?
ひと言で十分なので残すのがおすすめです。「フルーツ系・冷めると甘い」程度のメモでも、数が溜まると自分の好みの地図になります。豆を買うとき、その地図がそのまま「失敗しない買い物リスト」になってくれます。
まとめ|「言葉にできる」と毎日の一杯が変わる
テイスティングの道筋はシンプルです。①5つの要素を1つずつ探す→②フレーバーホイールの内側の言葉で表現してみる→③2種類並べて飲み比べる。この繰り返しだけで、「なんとなく美味しい」が「自分はこういう味が好き」に変わります。
味が分かるようになると、豆選びも淹れ方の調整も一気に楽しくなります。次の週末は、ぜひ2種類の豆でズズッとやってみてください。今日の一杯が、いまよりちょっと豊かになりますように。


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