余市が飲みたくなる話|竹鶴政孝が選んだ北の地と炎の一滴

お酒

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グラスに注いだ瞬間、焚き火のような煙の香りがふわりと立ちのぼる。ひと口含むと、力強い麦芽のコクの奥から、思いがけないほど柔らかな甘みが顔を出す——余市(よいち)は、そんなウイスキーです。

山崎や白州の陰に隠れがちですが、余市は「日本のウイスキーの父」竹鶴政孝が人生を懸けて選んだ土地で、今も昔ながらの炎の製法で造られ続けている、いわばジャパニーズウイスキーの原点です。

この記事では、余市という一本の背景にある物語と味わい、そして美味しい飲み方までをご紹介します。読み終わる頃には、今夜の一杯が決まっているはずです。

余市とは|まず基本情報

正式名称ニッカウヰスキー シングルモルト余市
蒸溜所余市蒸溜所(北海道余市町・1934年建設)
創業者竹鶴政孝(NHK朝ドラ「マッサン」のモデル)
タイプシングルモルト(アルコール分45%)
味の性格スモーキーで力強く、奥に果実の甘み

物語①|スコットランドの風景を、日本で探した男

竹鶴政孝は1918年、単身スコットランドに渡り、現地の蒸溜所で本場のウイスキー造りを学んだ日本人です。帰国後は寿屋(現サントリー)で山崎蒸溜所の立ち上げに携わりますが、彼にはどうしても諦められない理想がありました。「本物のウイスキーは、スコットランドと同じ気候風土でしか生まれない」

その理想のために寿屋を離れた竹鶴が、日本中からただ一か所選び抜いたのが、北海道の余市でした。冷涼で湿潤な空気、ピート(草炭)、豊かな水、そして海沿いの町に吹き寄せる潮風。スコットランドから連れ添った妻・リタとともに、竹鶴は1934年、この地に蒸溜所を築きます。のちのニッカウヰスキーの始まりです。

つまり余市とは、ひとりの職人が「妥協しなかった方の道」を選んだ結果として生まれたウイスキーです。この背景を知ってから飲む一杯は、少し味が違って感じられます。

北海道・余市町の位置と、余市が備えていた4つの条件を示した図
竹鶴政孝が日本中から選び抜いた土地、北海道・余市町

物語②|今も炎で蒸溜する、数少ない蒸溜所

余市蒸溜所の最大の個性が「石炭直火蒸溜」です。ポットスチル(蒸溜器)の下で職人が石炭をくべ、1000℃を超える炎で直接釜を熱する——効率化が進んだ現代ではほとんど姿を消した、手間のかかる伝統製法です。

強い炎は釜の中に複雑な反応を生み、蒸気加熱では出せない重厚で香ばしい酒質を作ると言われています。余市のあの力強さと焦がしたような香ばしさは、この炎の置き土産です。

その実力は世界も認めています。2008年には「シングルモルト余市1987」が世界的な品評会で世界最高賞に選ばれ、日本のウイスキーの評価を大きく引き上げました。派手な話題より品質で語る——余市らしい戴冠でした。

石炭直火蒸溜と蒸気加熱の違いを比較した図解
石炭直火蒸溜(左)と、現代の主流である蒸気加熱(右)の違い

味わい|煙の向こうから、甘みがやってくる

グラスに注ぐと、まずピート由来のスモーキーな香りと麦芽の香ばしさ。口に含むと力強いコクが広がり、その奥から樽熟成の甘やかさと果実の気配がゆっくり顔を出します。そして飲み込んだ後に残る、オークの甘さを含んだスモーキーな余韻。

「スモーキー=クセが強い」と身構える必要はありません。余市の煙は攻撃的ではなく、焚き火やキャンプの記憶を呼び起こすような、どこか懐かしい香りです。力強さと優しさが同居しているのが、この一本の魅力です。

余市の味わいが香り・コク・甘みと三段階に変化することを示した図
ひと口の中で、味わいは三段階に変化していく

美味しい飲み方3つ

  1. まずはストレートでひと口──最初の一杯は何も足さずに。チェイサー(和らぎ水)を隣に置いて、煙→コク→甘みの三段変化を確かめてください
  2. ロックで夜をゆっくり──大きめの氷でじわじわ加水されると、甘みの輪郭がほどけてきます。夜更けの一杯に最高です
  3. 濃いめのハイボールで食事と──スモーキーなハイボールは唐揚げや焼き鳥、燻製おつまみと抜群の相性。ウイスキー1:炭酸3の濃いめがおすすめです

飲み方の基本やグラスの話はウイスキーの飲み方入門にまとめています。余市は加水で表情が変わるタイプなので、トワイスアップもぜひ試してほしい一本です。

相性のいいおつまみ|「煙×煙」と「煙×甘」

余市の楽しみを倍にするのが、おつまみ合わせです。コツは2方向あります。

  • 煙×煙で揃える──スモークチーズ、燻製ナッツ、ベーコン、いぶりがっこ。スモーキー同士が響き合って、口の中が小さなバーになります
  • 煙×甘で対比させる──ビターチョコレート、レーズンバター、干し芋。余市の奥の甘みが引き出されて、ロックの夜が長くなります

特におすすめは「ビターチョコ×ロック」。チョコの苦みと余市の煙が溶け合った後に、両方の甘みだけがすっと残ります。コンビニで揃う組み合わせなので、今夜からでも試せます。

手に入れるには

年数表記のある限定ボトルは入手困難ですが、定番の「シングルモルト余市」(ノンエイジ・700ml)は通販で手に入ります。価格は変動しやすいので、いくつかのショップを見比べてみてください。

余市(楽天)

よくある質問

Q1. 山崎と余市、どちらを選べばいいですか?

性格がまったく違います。華やかで繊細な山崎に対し、余市は力強くスモーキー。そして定番の余市は山崎より手に入れやすいのも現実的な利点です。品薄銘柄の入手術は山崎・白州・響を定価で買う方法で書いていますが、「今夜飲みたい」なら余市が近道です。

Q2. スモーキーなお酒が初めてでも大丈夫ですか?

大丈夫です。スコットランドの強烈なピート系(ラフロイグ等)に比べると、余市の煙は香ばしさ寄りで親しみやすい部類です。不安なら最初はハイボールから入ると、煙が心地よいアクセントに感じられます。

Q3. 宮城峡との違いは何ですか?

同じニッカの蒸溜所ですが、竹鶴が「異なる個性の原酒を造るため」に選んだ兄弟蒸溜所で、宮城峡は蒸気加熱による華やかで軽やかなタイプです。力強い余市と飲み比べると、竹鶴の設計思想が味で分かります。歴史の全体像はジャパニーズウイスキー入門をどうぞ。

まとめ|今夜は、炎のウイスキーを

スコットランドの風景を探し抜いた男が選んだ北の町で、今も炎と職人の手で造られている一本。余市は、物語ごと味わえる数少ない定番ウイスキーです。

週末の夜、大きめの氷をグラスに落として、煙の向こうの甘みをゆっくり探してみてください。今日の一杯が、いまよりちょっと豊かになりますように。

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